オーケストラ!(2009)

なんだか三谷幸喜のコメディ映画のタイトルみたいで、たしかに映画全体はコメディ仕立てのところもあるけども、このタイトルではちょっと可哀想過ぎる気がした映画。原題は「le concert」というフランス映画で、本作のクライマックスでもあり、メインテーマともいえる「コンサート」とチャイコフスキーのバイオリン協奏曲(コンツェルト)を両方示すいい名前なのに。

なんとなく「愛と哀しみのボレロ」をなぞっているようにも思えた。ボレロが、ナチスドイツによるユダヤ人迫害という、悲劇の背景になるテーマがあったように、本作ではソ連共産党によるユダヤ人迫害という背景テーマもある。また、30年の時を経て明らかになる親子関係というところも・・・

ストーリー自体は、あまりにも都合が良すぎるきらいはあるし、ちょっとドタバタが過ぎるようなところもあるが、最後の15分を観るために、最初の1時間45分は我慢する価値は十分にある。そして最後の15分だけは2回でも3回でも観る価値があると思った。

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ボリショイ交響楽団の天才指揮者とうたわれていた主人公アンドレイ・フィリポフ(アレクセイ・グシュコブ)。30年前、彼がオケの指揮中に共産党員に乗り込まれ、指揮を中断させられたばかりかタクトをへし折られたときの曲がチャイコフスキーのバイオリン協奏曲。以来、天才指揮者はボリショイ劇場の清掃員にされてしまい、オケのメンバーも散りぢりに。さらに悲劇なのは、そのときソリストとしてフィリポフが抜擢した天才バイオリニストのレア。彼女はその後当局に逮捕されてシベリア送りとなり、そして・・・

とにかく、30年の時を経て、奇跡が起きる。30年前のオケが再結成され、パリのシャトレ座での公演が実現するのだ。ただ、ソリストはレアではない。フィリポフの強い要望で、フランスの若き天才バイオリニスト、アンヌ=マリー・ジャケ(メラニー・ロラン)が抜擢される。

ジャケもフィリポフのことは尊敬していたので共演自体は(すんなりではないが)実現するものの、ジャケはなぜ自分が抜擢されたのかは知らない。公演直前にフィリポフと食事をすることで、むしろ嫌悪感さえ抱いてしまう。そんな中で、とにかくコンサートが始まった。

オケのメンバーたちは30年のブランクがあるにも関わらず事前の練習などほとんどせず、本番まで一度も顔を出さないメンバーが大半。実際に曲がスタートしても、案の定?調子はずれの音が。招聘側のメンバーも「お願いだから神よ奇跡を起こしてくれ」とまで言い始める始末。

・・・ところが、奇跡が起きるのだ。ジャケの奏でる旋律が、オケの全員にとって決して忘れることのできない「あの音色」を彷彿させ、一気にオケは一体化して奇跡のようなハーモニーを奏で始めた!

ここからラストまでが(少なくともぼくにとっては)涙無しには聞いていられない15分となった。雪の降りしきる収容所で、楽器を持たずに演奏の練習をしているレアの映像がかぶさってくるシーンにも泣けるけど、なんといっても曲が始まってから終わるまでのジャケの表情の変化が素晴らし過ぎる。

最初は「こいつら大丈夫か?」と言わんばかりのクールな美人さんで始まった表情が、すぐに「なかなかやるじゃない」という表情に変わり、やがてオーケストラとのハーモニーを作るための必死の全力投球の表情になり、オケと一体となった恍惚の表情へ。そしてラストは自ら感動して号泣寸前の涙を浮かべ、心の底から嬉しそうな最高の笑顔でエンド。

特に全力投球のときの表情がたまらない。お父さん(この場合はフィリポフか)に必死で付いていこうとするけなげな女の子のようにも見えるし、卓越した技術者の表情にも見えるし。

チャイコフスキーのバイオリンコンチェルトも改めて好きになってしまったかも。

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メラニー・ロランのあまりの美人さに、後日、彼女の出演作をさがして「複製された男」という映画も観てみたが、大失敗。ちょっと似ている別人かと思った。これ以上失敗を重ねてイメージを壊したくないので、それ以後は探していない(笑)。