On7というのは、女7人ということだとは思うが、メンバーのそれぞれが俳優座とか青年座などのさまざまな劇団に属しながら、それぞれの劇団では演じにくい演劇をやってみようと集まった野心的な演劇集団。縁あって1回目から観させていただいているのだが、これまでの3回は女優さんたちそれぞれがなんらかの役を演じるという、当然と言えば当然の演劇だった。
それが今回、「自分たち自身を演じる」という面白い試み。脚本も「ディバイジング」という手法で、あらかじめ渡された脚本ではなく、脚本家と演者が共同して、場合によってはアドホックに作り上げるというもの。「自分たち自身」といっても、もちろん自己紹介を演劇にするわけではない。On7のメンバー全員が30代の女性だという共通点を活かし、喪失・生・思い出などといったテーマを通じて同世代の女性を演じるというものだ。
観た印象。(想像だが)女性が観るのと男性が観るのでは、感想がまったく異なるのではないか。女性の場合は、基本は「共感」があるだろうから、高揚したり落ち込んだりという進行に沿って、観ているほうもジェットコースターのような気分を味わえるかもしれない。しかし男性が観ると、わりと冷静に色々考えさせられてしまうのだ。ちょっと責められているような気分になるかもしれない(笑)。深刻な場面も多いが、まるでぶっちゃけた女子会を衆目に晒しているような場面をラップで演出というくふうもあって飽きなかった。
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30代の自立した独身女性というのは、「もっとも選択肢が多く、もっともアクティブな」人たちではないだろうか。言い換えれば、「もっとも可処分所得が高いか、もっとも時間をふんだんに使える」人たち。
かなり昔の話だが、西武百貨店が伝統的な外商制度を廃止し、「Club-ON」という、購買金額によって優遇するという会員制度への完全移行を行った。それまで百貨店に最も利益貢献してくれているのは(お金持ちの)外商のお客様と思われていたが、実は外商客からは値引き要請が多かったり、何しろ外商なので百貨店の人件費も相当にかかっており、決して「よいお客様」とはいえなかったのだ。真にもっとも利益貢献度の高かったお客様というのは、30代・40代の独身女性だった!彼女たちは自ら店に足を運び、店員をさほど煩わせることもなく、さっさと高額商品を買っていくということがわかったのだ。
とにかく男性から見ると、そういう彼女たちは、まぶしく輝いて見える。単に「若くて綺麗」という10代20代には無い、ある程度人生経験も男性経験も積んだ上での美しさもある。魅力に満ちているのだ。
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でも、彼女たちがいつまでも30代独身でいられるわけではない。時間は容赦なく経過していく。出産限界年齢という残酷な単語が頭をよぎることもあるだろう。社会的には充分一人前で、彼女自身が責任を持っている人たちもいるから、あっさり仕事を放棄するなんてできない。彼氏を作ろうと思えば作れるだろうけど、ここまで来て「誰でもいい」という軽薄な選び方はしたくない。慎重に相手を選んで行ったら妻帯者しか残っていないかもしれない。同世代には子育てに没頭している人もいる。親の健康もそろそろ心配だ。
もっとも輝いていて、もっとも選択肢が多く、もっとも悩み多き世代。そしておそらくその結果、もっとも忙しい(気の休まらない)世代。
演劇を観る前、実は「かさぶた」というタイトルがピンと来なかった。かさぶたから連想されるイメージは、こびりついて離れない記憶、というものだろう。俗な言い方だけど、「男は別名保存、女は上書き保存」と言われるよう、過去の思い出に執着するのはどちらかというと男のほうで、女性は「さっさと忘れて次に行く」ものだと信じていただからだ。
それが、今回の劇を観て思ったのは、彼女たちは少しくらいは「上書き保存」、すなわち「忘れる」という努力をしないと、カラダじゅうがかさぶただらけになってしまうくらい忙しいのではないかということ。「眩しさにやられたことのある」世の男性諸氏は少しは反省も必要かも。
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『ひとりだということ』という自覚的なセリフでスタートし、『返して下さいと誰に頼めばいいのだろう』という弱音も吐きながら、『自分が選んだ道だから!』というセリフでのエンディング。30代女子、強い・・・